本年度は、英国ロンドン東部のタワー・ハムレッツ区における現地調査に向けての準備作業として、数回にわたる研究打合せを行った上で、2月~3月にかけての現地調査を実施した。タワー・ハムレッツ区では、2001年にコミュニティ・プランが策定されるとともに、その実施機関として、地域戦略パートナーシップ(Tower Hamlets Partnership : THP)が構築されてきたが、10年を経て見直しの時期を迎えている。目下、新たに2020年までのコミュニティ・プランが策定され、同時に、THPの構造についても、リニューアルに向けて再検討されているという段階である。したがって今回の現地調査では、THPのディレクターへのインタビューについてはTHPがリニューアルされて以降とのことであったため、タワー・ハムレッツ区で活動しているボランタリー・セクター(チャリティ組織)へのインタビューをもとに、パートナーシップ政策の過渡期の状況を把握することを主軸とした。インタビュー先は、新たに組織化されたTHCVS (Tower Hamlets Council for the Voluntary Sector)、高齢者の保健・福祉サービスを提供しているWRVS (Women's Royal Voluntary Service)およびACTH (Age Concern Tower Hamlets)、診療所やコミュニティ・カフェ、社会的企業を併設した教会であるBromley-by-Bow Centre、移民向けのコミュニティ・サービスを行っているOxford House、ボランタリー・セクターの全国組織であるNCVO (National Council for Voluntary Organisations)、等である。現地調査から明らかになったことは、以下の諸点である。労働党ブラウン政権から保守党・自由党連立のキャメロン政権に代わり、'Big Society'というスローガンの下、ボランタリー・セクターへの期待がさらにかかっているなかで、社会サービスを積極的に受託し個人化(自立)への対応を進めようとする組織と、個人化(自立)を前提とした社会サービスを拡大していくこと(=自立できるということに価値を置いていること)に疑問を感じている組織とに分岐している現状があり、これは、従来のチャリティにビジネス的な要素を導入していくことへの是非とも関わって重要な論点となる。
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