本研究課題の最終年度である本年度は、これまでに行ってきた経験的研究および理論的研究を集大成するとともに、そこから導出された論点を整理し、今後の研究につなげることとした。これまで継続してきた英国での現地調査をふまえ、英国と日本との官民/公私関係にみられる相違について、福祉国家からポスト福祉国家へという歴史的文脈を紐解くなかで明らかにしてきた。 英国のニュー・レーバー政権では、民間部門を政府のエージェントとして捉えるよりも、官民パートナーシップを掲げることで、双方の関係を対等・協働的なものへと変え、民間部門のイニシアティブを高めていくとともに、地方自治体やコミュニティの役割を見直していくことが最優先とされた。そこでは、とりわけコミュニティ・レベルでの問題に主体的に関わり、柔軟かつ斬新なかたちで対処し得る手法や力量を備えているサードセクターが、政府の有力なパートナーとして、また、ポスト福祉国家の有力なアクターとして、位置づけられてきた。このことは、その後の新政権に移行しても基本的には変わっていない。しかし、自治体やコミュニティにみられる地域の現実は、必ずしも政府の期待通りにはいっていないことが、本研究の調査を通じて明らかとなった。 英国に準拠しがちな日本の政策においても、官民パートナーシップは、新たな公共性の創出に向けた重要課題となっている。しかし、英国のような、ボランタリー組織の歴史的な層の厚さに乏しく、また、「国家=公=官」の三位一体の下に「民=私」が包摂されてきた日本では、旧来の官民一体構造は再生産されても、真のパートナーシップが構築されるとは限らない。本研究で明らかにされた英国のパートナーシップ政策における限界や、英国とは異なる日本の政治経済体制および市民社会の歴史的・文化的基盤をふまえた上で、官民パートナーシップに見いだされる公共性の課題を分析していく必要がある。
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