触法精神障害者の処遇に関する近年の動向やそれをめぐる議論として、一方では、刑罰化や有責化の傾向がある。精神障害が認められても責任能力を認め、刑罰を科す運用が増えているという指摘がある。その一方で、それ以前から犯罪行為や問題行動の病理化・医療化の傾向も指摘されており、それが精神障害者の危険視に繋がっていると言われる。 今年度は、2000年以降の触法精神障害者に対する制度及び心神喪失者医療観察法に関する議論を吟味し、導入賛成論でも反対論でも、しばしば刑罰化・有責化の主張が見られることを確認した。そしてこの現在の議論と、それ以前の触法精神障害者の処遇として想定された保安処分に関する議論を比較した。今年度はまず、1970年代の保安処分に関する議論について資料収集を行って検討し、この時期には、現在とは対照的に保安処分導入賛成論も反対論も、有責化をあまり論じていないことも確認した。また、1960年代には「精神病質」というカテゴリーで、犯罪行為や問題行動の病理化の傾向が見られたが、1970年代にはその病理化を問題視する議論が急増したことも確認した。 触法精神障害者の処遇については、時代によって、問題と見なされることや重視されることが異なっており、この歴史的変遷を踏まえて捉える上で現在の議論を捉えるために、本年度確認した知見は重要となると思われる。
|