触法精神障害者の処遇に関する近年の動向やそれをめぐる議論として、一方では、刑罰化や有責化の傾向がある。その一方で、それ以前から犯罪行為や問題行動の病理化・医療化の傾向も指摘されており、それが精神障害者の危険視に繋がっていると言われる。 今年度は、前年度に引き続き、1970年代の保安処分に関する議論について検討し、現在とは対照的に有責化の議論も、病理化の議論も大勢でないことを確認していた。しかしながら、わずかに有責化の論理も見られ始めたことを今年度は確認した。1つは、1970年代に保安処分反対論が精神障害者の犯罪率の低さを指摘し、導入賛成論が想定する「精神障害者の危険性」に対抗したのに対し、反批判として主張されたものが1つである。また、1960年代には「精神病質」というカテゴリーで、犯罪行為や問題行動の病理化の傾向が見られたが、1970年代にはその病理化を問題視する議論が急増したことも確認した。しかし、この病理化への批判を精神疾患の診断や精神鑑定の妥当性にまで広げる論があり、その中で精神障害者の有責化を主張するものがわずかに見られた。大勢としての現在の議論との相違と、同時に少数ながら有責化の議論が出てきたことを確認した。前年度より詳細に確認した議論の流れを踏まえ、今年度はこの点を論文化した。 触法精神障害者の処遇については、時代によって、問題と見なされることや重視されることが異なっており、この歴史的変遷を踏まえて現在の議論を捉えることが意義をもつと考える。
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