本研究の目的はEU(欧州連合)における薬物政策がどのような歴史的経緯によって成立し、それが現在どのような立案過程によって議論されてるのかを、とくにEU内で広く採用されているハームリダクション政策を中心として、社会学的に記述することである。なかでも本年度は、EU内におけるハームリダクション的施策の現状についての調査研究を計画し実施した。具体的には、オランダのアムステルダム市とロッテルダム市において、それぞれ異なった形で展開されているハームリダクション施策について、関係する諸機関における見学・観察ならびにインタビューを行った。アムステルダム市では、市の公衆衛生局(Public Health Service)が中心となって運営している、社会保障などとの統合施設や、NGOが運営する非アムステルダム市民向け使用者施設などを見学・観察し、関係者ヘインタビューを行った。ロッテルダム市では、大規模なNGOが運営する諸施設の見学・観察と担当者へのインタビュー、ならびにNGO幹部などに対するインタビューを行うとともに、それらNGOに外部から関係する研究者にもインタビューを行った。そこで明らかになったことは以下の通りである。すなわち、社会統合にハームリダクションが特定の役割を果たしていること、逆に統合的な機能を有しないハームリダクションは十分にその効果を発揮しえないと考えられていること、そのためもあってハームリダクションの完遂には行政的・経済的・社会的困難が伴うこと、とはいえハームリダクション自体は多様な形態をとりうること、などである。
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