EUにおける薬物問題対策はこんにちではハーム・リダクションが主流となっているが、その成立には独特の経緯がある。戦後の経済共同体構想からECSC、ECを経てEU成立に至る歴史的過程において、薬物問題が問題全体としてではなく、当面EUがその経済体制において重視する諸カテゴリーに分割され議論されて対処された。その結果、ハーム・リダクションを中心とした脱犯罪化統制・医療的福祉的処遇は、EUの経済環境整備の結果として析出された社会政策の一部として成立したが、その成立過程においてはEU独特の補完性の原則が重要な役割を果たした。ハーム・リダクション実践においては他の社会政策と同様にNGO・NPOが重要な役割を果たしているが、その諸状況においてはEUの福祉政策にしばしば見られる勤労福祉に関する言説が重要な位置を占めている。
|