本年度は既存文献による状況把握(補足)とイタリア北部における実態調査、あわせて日本におけるサードセクターの典型例としてワーカーズ・コレクティヴの分析(特に仕事文化)を行うことがことを目的とした。イタリア調査としては、第一に「社会的経済」と契約関係を深める自治体の、協働の実態のそれを支える枠組みとしての補完性原理の分析、第二に、「社会的経済」と契約関係についての入札制度、公契約制度の分析、第三に、上記の「協働」をめぐる当事者(地域としては、北西部・トリノ地域におけるサードセクターの単位組織およびコンソーシアム)へのヒアリングを行った。比較のための日本の調査については、北海道ワーカーズ・コレクティヴの量的調査の集計・分析等をおこない、主として、サードセクターに働く人々の仕事と暮らしに対する意識分析をイタリアにおけるボルツァガ等の調査結果と比較した。 この結果、下記の知見を得た。(1)イタリアにおける「協働」関係は、「補完性の原理」に基づいて展開しているが、この「補完性の原理」をめぐっては、イタリアに特徴的な受容・再構成が見られること。特に「水平的補完性」の位置づけが、サードセクターによって積極的になされて、このことが、社会サービス執行部分のみならず、制度設計プロセスへの参加、地域自治への決定参加の根拠となっていること、(2)北部においては、自治体とサードセクター間の協働が、「入札改革」を深化させるという方向性よりも、コンソーシアム単位で地域における福祉、就労支援等のサービス供給のあり方を検討、具体化していくという方向性が模索されていること、(3)イタリアでは、働く者の意識について、サードセクター労働の、公務労働、雇用労働への接近が指摘されているが、日本においても、一部雇用労働的捉え方が広がり、これが創設世代の仕事文化とのコンフリクトを形成していることが見て取れた。
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