本年度に掲げた課題は、(1) 廃藩置県前後を中心とする沖縄近世史研究のフォロー、(2) 宮古・八重山における医療行政史に関する資料蒐集、(3) 療養所がなかった時代の沖縄本島における「救癩」活動の現実解明と考察、の三件に要約できる。 (1) に関しては、『沖縄縣史』(琉球政府編)の読解に着手した。(2) に関しては、ハンヤン病の国立療養所「沖縄・愛楽園」で、この方面の文献・資料の検索と蒐集を行った。(3) に関しては、(1) も踏まえつつ、青木恵哉の自伝『選ばれた島』(新教出版刊)と彼の当時の書簡から、備瀬・後原から屋部への拠点の移動に関わる一連の出来事とその音速、そして屋部の<隔離所>での日常生活について、歴史社会学的な考察を試みた。 青木たち当時のハンセン病患者にとって、屋部の<隔離所>は教会的な機能と避病院的な機能を兼ね備えていたこと、そして他所のシマからの患者達の集合にも、屋部のシマ人たちは寛容であったことが、明らかになった。 青木が各シマの患者たちに行った伝道と救済活動は、それまで断絶状態だった患者たちの横のつながりを生み出し、患者たちから成る<もう一つのシマ社会>を確実なものにしていった。こうしたつながりから、青木は大堂原の土地購入や「大堂原」事件(1934年12月、青木が屋我地大堂原に購入した土地へ患者たちを上陸させた出来事)の画策が可能になったということができよう。
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