本年度に掲げた課題は、国立療養所の沖縄愛楽園・宮古南静園でのフィールドワークを継続しつつ、(1)明治期沖縄の政治・経済に関する沖縄近世史研究、および同時期の新聞集成・郷土誌・説話集、(2)同時期の沖縄キリスト教史研究、(3)「大堂原事件」から沖縄の<救癩団体>である「沖縄MTL」結成の経緯の再構成の三点を研究課題に掲げた。 今年度は、沖縄愛楽園での二度にわたる現地調査を実施し、見聞を深めた。課題(1)に関しては、『沖縄縣史』を中心にした文献講読を行いつつ、資料収集の面では井野知事沖縄縣政下の1935年7月付けの「知事引継文書」を発見した。「沖縄縣振興計画案」におけるハンセン病問題の位置づけを伺える点で、本研究にとって重要な資料であり、大きな発見であった。課題(2)に関しては、沖縄キリスト教史の基礎文献を蒐集・講読したが、戦後「沖縄MTL」の母胎であった「日本MTL」が改組された「好善社」の現代表と知己を得ることができた。課題(3)に関しては、「大堂原事件」の前提となる青木恵哉による済井出・大堂原の土地購入に関する経緯の検証から着手したが、青木の自伝と書簡、その他の資料では記述が一致せず、その全貌は現段階では十分に解明できなかった。この件で多くの研究時間を割かざるをえなくなり、「大堂原事件」をめぐる青木の策略の構成を実証的に明らかにしたところで終わった。尚、今年度は、ハンセン病への罹患を現象学的疎外論に基づいて理論的に捉え返す作業が、緒に就いた。
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