本研究は、健康不安意識の広がりという現象を一つの糸口にして、現行の医療資源の配分に関わる不合理な実態を明らかにし、より適切な配分の実現可能性を探ることをおもな目的として企画されたものである。方法としては、文献資料研究、現地のフィールドワーク、アンケート調査などを用いた。さらに専門家を招いての研究会・講演会などの開催による新しい知見の獲得を積極的に試みた。 過去二年間に行った研究の成果調査結果を踏まえ、補足や追加の調査や聞き取りを行った。特に精神科医療については浦河町で町民を対象としたアンケート調査と聞き取り調査を実施した。「べてるの家」の先駆的な実践は町民の支えがあって実現していることがわかった。また2011年3月に実施したキューバ視察の成果については、研究協力者の寄稿とあわせて二点の論稿画年度内に公表できた。 また研究成果のまとめとその市民への還元についても力を注いだ。研究協力者たちからの寄稿をもとに編著『健康不安と過剰医療の時代」医療化社会の正体を問う』を一般向けの書物として三月に刊行できたことは大きな成果と言えよう。そこでは、検査・診断被爆の過剰による危険性、フッ素塗布の危険性、生活習慣病のリスクファクターとして日本では四つのもののみが選ばれた背景、メタボ健診という制度創出の舞台裏、精神科における抗うつ剤の使い過ぎの弊害、血圧基準値の変更に伴う血圧降下剤の使い過ぎの弊害などの問題が指摘されている。
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