本年度は本研究課題のまとめとして「ソーシャルインクルージョン実践知の分析及び今後の課題抽出」を中心に行った。 ソーシャルインクルージョン実践知の分析に関しては、インタビュー調査、文献調査により収集した資料などを元に考察を行った。分析手法は、グラウンデッド・セオリー・アプローチなどを元にした質的研究の手法を採用した。質的研究では、量的研究とは異なり、より対象に内在化した仮説の抽出に重点が置かれるため、本研究課題のような先行研究の極めて少ない分野においては大変適したアプローチであると改めて思われた。 「ソーシャルインクルージョン」という概念の更生保護領域への適用に関しては、すでにいくつかの先行研究・事例が出てきているものの、この概念を用いることによる限界も感じられた。つまり、この概念の適用により、予め問題の着地点が設定されてしまうということが否めないということである。しかし、そうした問題点を踏まえた上で、「ソーシャルインクルージョン」という概念を通じ、更生保護をこれまでの歴史・時間軸上で捉えてみた場合、大変興味深い課題が浮かび上がってくることとなった。それは、かつての更生保護(司法保護など)を包含した「社会事業」という枠組みの優位性であり、逆に言うならば、現在の「社会福祉」という枠組みの持つ限界である。 結論として、本研究を通じ浮かび上がってきた「ソーシャルインクルージョン実践知」は、対象者との間での「信頼関係」をいかに構築するか、また、社会復帰させる上で、いかに「社会資源」を動員するか、といった更生保護ボランティア活動のコアとなる局面において最も顕著となるものであるということができる。今後の課題としては、更生保護事業の持つ歴史的側面に注視しつつ、そもそも「更生-保護」とは何を意味するものであるのか、を明らかにすることを通じ、更生保護に対するより根源的な理解に迫りたいと思う。
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