本研究は、日本と韓国における周辺国(民)に対する認識(イメージ・表象)がそれぞれどのような相関・影響関係にあるのかを、地政学的空間(世界)認識及びナショナル・アイデンティティの構築との関連で解明することを目的とした。本年度は、初年度からの先行研究の整理及び分析を継続しつつ、事例分析を中心に展開し、研究成果の報告を行った。また、各種メディア、世論調査機関、政府関連機関による調査結果などを収集分析し、時系列及び相関・影響関係を解明する作業も継続して取り組んだ。研究成果としては、雑誌論文や学会発表の形で発表した。その一つとして、2010年度より「テレビは歴史を語れるか」というタイトルで、『放送レポート』誌上で連載をしてきたが、ここでは「日韓併合100年」を記念して放送されるテレビ番組の内容分析(言説分析)の成果を、放送業界及び一般読者向けに書いてきた。本年度にも連載を継続し、戦前・戦後の現代史を語る際の「自画像と他者認識の関連」を意識して分析に取り組んだ。本年度の連載で取り上げたテーマは、「戦時動員」、「志願兵・女子勤労挺身隊員・特攻隊員」、「在日コリアンの戦後」などであった。また、韓流ブームのなかの日本側の韓国認識にも注目し、マスメディアやネット上の言説を比較検討し、同時に、東日本大震災後の状況に注目し、内外の報道の分析やニュース受容分析を行った。分析の結果、「ナショナル・アイデンティティと他者認識」は、かつてのようなナショナルな物語(ナラティブ)の影響が際立つという状況ではなくなりつつあるという現実が窺えた。グローバル化の影響や、階層化の深化といった社会全体の変化や、メディアの生態の変化などが原因として挙げられるが、一方で、地上波テレビや全国紙といったナショナルなパブリックを構成する空間においては、依然としてナショナルなナラティブが支配的である現実もみられた。
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