多くのブラジル人は、2008年の世界経済危機による打撃を受け、日本国内で真っ先に解雇され、再就職難に直面するようになったが、彼らのほとんどが帰国せずに日本にとどまっている。そのなか、ブラジル人の子どもの数は年々増加している。子どもたちのなかで、大多数は日本の小・中学校に通っているが、在日ブラジル人学校(エスニック学校)に通う場合もある。 今年度は、日本の学校に通う子どもたちに注目した。その特徴として、ほとんどの家庭内においては、ポルトガル語と日本語の二カ国語が同時に使われているが、多くの子どもたちは、幼少時から日本の保育園に通い、そのまま日本の学校に進学するため日本語の方が流暢になっている事例が増えてきていることがあげられる。ただ、必ずしも日本人の子どもと日本語習得が同じレベルであるとは言えない。この状況下で、子どもたちは家庭内ではブラジル人としてのエスニック・アイデンティティが保持されており、学校や地域社会でもブラジル人あるいは外国人として見られる。しかし、自分は日本人と同じような意識を持っている子どもたちが増えていることも確認できた。そのなか、客観的に見れば、ブラジル人の子どもたちが現実的に日本社会へ適応するため、一つの「道具」として日本語習得の必要性が明確であるといえる。 一方、日本からブラジルへ帰国した子どもたちの現地での教育状況の調査も実施した。多くの場合、突然ブラジルへ帰国することになった子どもたちが、今度は、まずはポルトガル語の習得に苦労をし、その上ブラジルで自分の居場所、自分のアイデンティティを探す問題に直面している状況が見られた。
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