研究概要 |
アメリカの自動車メーカーでは、企業とUAW(全米自動車労組)が協同して20を超える職種について徒弟訓練プログラムを管理、運営し、専門技能者の育成にあたってきた。教育期間は原則として4年間(約7,900時間)で、約580時間は座学、残りはOJTでおこなわれている。プログラム内容は、企業の枠を超えて、ほぼ共通したものになっており、訓練内容が企業ごとに違う日本とは大きく異なっている。徒弟訓練プログラムをつうじて形成される高い専門能力は、アメリカに進出した日本企業からも高く評価されている。 ところで現在の徒弟訓練プログラムの最大の問題は、熟練職種が20を超えて細分化されていることにある。熟練職種の行きすぎた細分化は、作業上の柔軟性を失わせ、非効率性を生みだすとの批判を受けている。リーマンショックは、この問題をあらためて労使間の大きな争点に浮上させた。 リーマンショック後、経営危機に陥ったアメリカの自動車メーカーは、2009年および2011年におこなわれた労使交渉において、熟練労働者からの強い反対を受けながらも、UAW中央に熟練職種の削減、統合を認めさせることに成功した。またこれまで熟練労働者によっておこなわれてきたライン上の予防保全の一部作業が、ライン労働者に移譲されることになった。これは日本企業の慣行に倣うものである。 現在までのところ、職種統合により拡大する職域については追加的な専門訓練がおこなわれ、専門性の希釈化が生じないよう配慮がなされている。しかし自動車メーカーはさらに職域の削減、統合を進めると見られており、職域を拡大しながらどのように高い専門性を維持していくかが今後の大きな課題になるとみられる。
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