研究期間の初年度に当たり、まず、虐待事例等の事例検討シートを作成した。これは、さいたま市コーディネーター連絡会議における相談支援事業者職員との吟味検討によって作成された。次に、虐待等事例の収集と検討を実施し、本年度は18ケースの収集と検討を行なった。これらの内訳は、親子間の発生が8ケース、夫婦間の発生が3ケース、福祉サービスにおける発生が5ケース、民間事業所の職場における発生が2ケースである。ケース検討は実施されていないが、虐待事例そのものについては概ね100ケースの所在を事実確認することができた。 本年度に収集された虐待事例の中で明らかになりつつある虐待発生のメカニズムは次の通りである。親子間の虐待発生ケースにおいて、児童期~青年期の親子分離と家族からの自立が達成されないことが長期に及ぶ「親子関係」の延長を発生させ、親の加齢に伴う今後の生活自立への見通しの閉塞性が、家族関係の強迫化と不適切なサービス利用(または不利用)を介して虐待の発生に至ることが共通性として確認される。 とくに、知的障害と精神障害のケースでは、上記の虐待発生のメカニズムを惹起しやすい諸条件がある。知的障害については、職業と生活の両面における発達と自立の見通しが30歳程度まで必要である場合が多いために、親子関係の延長が生じ易い。精神障害については、統合失調症の発症時期が10歳代後半から20歳代に及ぶために親子関係の延長が生じるだけでなく、子どもの発症した現実と親の子の自立へ期待とのギャップが生じやすく、場合によっては親子関係の破綻から見限りが生じ易い点である
|