医療機関や健康診断の受診などの受診行動には社会経済的地位が関連していることが示唆されている。低所得や教育歴が短い者ほど、受診を控えやすく、健康診断など健康関連行動への関心も低い。1年目の研究で、受診抑制が要介護状態につながる可能性を報告したが、その経路としてソーシャルサポートの多寡が関連しているか否かを検討するために、AGESの4年間の追跡データを用い、Coxの比例ハザードモデルによる検討を行った。年齢やベースライン時の疾患の治療状況を考慮しても、ソーシャルサポートが少ないほど、認知症を発症したり要介護状態になりやすいことを確認した。ソーシャルサポートが少ない高齢者では、認知症発症リスクが2倍以上高く(国際老年精神医学会で発表)、要介護状態発生リスクは、1.5倍から2倍程度であった。いずれも前期高齢者において関連が強く、早期の介入の必要性が示された。社会経済的地位が低いほどソーシャルサポートが少ないことは、今回の結果(低所得者に要介護状態や認知症の発症が多い)の一部を説明していると思われる。 健診の受診については、主要な生活習慣病(悪性新生物、心疾患、脳血管疾患)による死亡との関連について、やはりCoxハザードモデルによる解析を行った。所得、年齢、疾患の治療状況を考慮しても、健診を1年以内に受けていない高齢者は、死亡リスクが1.2~1.8倍程度高かった。死因ごとの解析では、心疾患と悪性新生物で有意な関連が見られた。健診により疾患が早期発見されることで適切な治療につながる可能性が示された。特に悪性新生物による死亡は低所得者に多い理由として、健診受診など受診行動が関連している可能性が考えられた。今後は、ソーシャルサポートなど心理社会要因との交互作用の検討をしつつ、受診抑制につながる要因を多面的に解明して行きたい。
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