1・2年目の研究から、皆保険制度の日本でも、所得が低いほど受診抑制が多くみられるなど所得による医療アクセスの差が存在し、治療を中断した高齢者は、年齢や所得など社会経済的地位を調整した上でも要介護状態になりやすいことが確認された。受診を控える理由として、費用だけでなくうつや社会的支援など心理社会的要因の影響が示唆された。これら結果をふまえ、知多半島の5自治体分の地域高齢者パネルデータ(N=7855)を用い、精神的・社会的・身体的健康度(睡眠障害、抑うつ、主観的健康感、社会的支援など)の変化を、受診行動や生活習慣の関連から検討した。その結果、2003年調査時に睡眠障害を訴えていた高齢者は、ベースライン時の抑うつを調整しても、3年後に抑うつ症状を訴えるリスクが高かった。 4年間(2003年11月~2007年10月)の追跡データ(死亡・要介護・認知症発症)の分析では、睡眠障害が認知症のリスクであり、理由として、社会活動や知的活動の乏しさが推測された。これら心理社会要因に比べ健診受診などの受診行動が認知症発症に与える影響は相対的に弱かったものの、健診を受けない高齢者には抑うつや社会的孤立が多くみられた。受診抑制は、要介護発生や死亡と関連していたが、認知症発症とは関連が不明確であった。受診を控えた理由として「医者に行くのは好きではない」と回答する高齢者が「費用がかかる」の24.4%に対し23.7%とほぼ同率であり、受診行動には医師とのコミュニケーションの質など心理的要因が関連している可能性も示された。 なお、以上の結果は、日本公衆衛生学会、日本心身医学会、米国公衆衛生学会で発表すると共に、連携研究者によるホームページ(http://square.umin.ac.jp/ages/)を通して公開し、自治体やNPOなどを対象にした説明会やシンポジウム、研究会などでも発表した。医療アクセスと社会経済的地位の関連については、内外の研究の動向をまとめ、各国の取り組みや今後の課題などについて日本公衆衛生雑誌の連載の一部として発表した。
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