アメリカの社会福祉領域では福祉消減、民営化、個人責任論などが主流となり、その結果、社会的に不利な立場の人々への様々なサービスカットが一層進んでいる。このような状況を受けて、再びコミュニティに着目するインターベンションが注目されている。本研究は、アメリカのソーシャルワークにおけるコミュニティワーク(CW)の概念の展開および援助方法の現状と課題を検討し、日本の地域福祉の鍵となるコミュニティワークの体系化および実践モデルの構築へ貢献することを目的とする。本年度は、アメリカにおけるコミュニティワークの動向について、以下の調査・研究を実施した。(1)CWに関する先行研究に関するレビューをコミュニティ・プラクティス(CP)を中心に行い、その動向の整理に取り組んでいる。(2)米国コロラド州デンバー市のNPO(貧困者、母子世帯、移民、高齢者を対象)への現地調査(関係者への聞き取りと参与型調査)を実施した。在宅高齢者ケアとコミュニティワークとの関連についてデンバー大学のCox教授らと現行の福祉政策の特徴、コミュニティワークの展開、必要性について議論し、そのニーズが大きいにも関わらず政治的支持に欠け、資金確保が非常に厳しい状況であることが分かった。また、低所得コミュニティの女性を対象とするグラミン・アメリカの活動に関するデータ収集を行った。今年度の調査の一部は、『世界の社会福祉年鑑2009』「グラミン・アメリカ」としてまとめ、2009年12月に刊行した。他の調査結果は、関連学会誌へ投稿準備中である。今年度の調査から、アメリカのコミュニティワークの動向、必要性、実践における課題が明らかになった。その活動領域は、近隣の組織化から社会運動までと幅広くいくつかの研究はモデルを提示し、対象者も貧困者、母子世帯、移民、高齢者、ホームレス、元受刑者など包含している点は、日本の地域福祉とは大きく異なることが明らかになった。
|