研究事業の最終年度にあたる本年度は、本研究事業がテーマとしてきた「コミュニティプラクティス」と「エンパワーメント」に関する現状を把握する目的で先行研究のまとめを進めるとともに、国内外の研究者および実務者との情報交換・協議を行った。 2012年5月には、国際ソーシャルワーカー連盟(IFSW)前会長Dr.David Jonesと国際的な視点から研究テーマに関する議論を深める事ができた。8下旬から9月にかけてアメリカのコミュニティ・プラクティス(CP)の動向分析のためデンバー市において現地調査を行った。マイノリティの中でも同市のヒスパニック系住民の多くは貧困、失業、高校中退、薬物依存、ホームレス、母子世帯の増加などの社会問題に直面しており、問題解決のために政府・NPOが多種多様なプログラムを展開している。中でも、NPO MiCasa Resource Centerは、ヒスパニック系低所得者を対象に生活、就労、教育、語学などの先駆的な取り組みを行っている。活動内容は、個人と家族への支援と伴に、ヒスパニック系地域への呼びかけ・働きかけ、雇用創出の機会、ケアネットワーク(子ども、高齢者、障害者など)、コミュニティ内外のビジネスの連携、他の黒人系やアジア系コミュニティとの連携、警察と地域防犯の連携などに焦点を当て、近年は特に新しいコミュニティ形成およびつながりを築くための活動を進めている。同時に、青少年を対象とするリーダーシップ育成、新たな領域(緑ビジネス)での就労訓練、議員および議会への働きかけなど生活と経済支援の多岐に及んでいる。地域の近隣やグループを組織化し、警察との連携を図りながら犯罪防止活動も進めている。また、貧困母子世帯を対象とするWork Optionfor Women (WOW)は、生活、教育、就労、家計管理、メンタルヘルスなどの個人・家族支援を通して、当事者のセルフヘルプワークへとつなげエンパワーメントを実践している。さらに、NPOが経営するカフェを基盤とし、幅広くWOWの活動やサポーター、ボランティアの働きかけなども活発に行っている。一方、日本では特に貧困、就労との関連から予防的なCPが求められることを確認した。
|