本年度は、とくにグループホームBの介護者間のインタラクションに観察を絞った。 まずカンファレンス時における介護者の用いる身体動作による空間表象を分析した。その結果、入居者の生活空間と介護者の話し合いの空間とが重なるグループホームの場合、介護者は、グループホーム内の部屋の位置や入居者の座席など、環境に埋めこまれた空間情報を身体動作によって参照することで、言語化しにくい介護行為や入居者どうし相互行為を表していることがわかった。 介護者間では言語を介さない身体動作の繰り返しが多発することが前年度までの研究で明らかになっていた。今年度はその構造をさらに詳しく分析し、身体動作は介護者間でただコピーされるのではなく、先行する動作にはない新しい情報を付け加えるべく改変されることを明らかにし、これをMcNeillの理論を援用し「成長点」と名付けた。一方、この新しい情報は、先行する動作の構造と一部同じ形式の上に乗っており、この共通構造を「キャッチメント」と名付けた。従来ジェスチャー研究では「キャッチメント」「成長点」は個人内の現象として考えられてきたが、これらは、介護者の知識状態を捉える概念として個人間相互作用に応用できることを明らかにした。また、介護者は自分の発言とともに繰り出されるジェスチャーを延長し、相手の発話とともに「延長ジェスチャー」を行うことによって、複数の話者による動作の対比と繰り返しを視覚的に顕わにすることがわかった。
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