本研究の目的は、次の2点である。第1は、子ども家庭福祉実践において、「リスクとリジリエンの視座」が有効であることを理論的に明らかにすることである。第2は、「リスクとリジリエンスの視座」に関する実証的研究をとおして、実践レベルにおける援助のモデルを提示することである。最終年度に当たる今年度の研究成果は、以下の2点から整理できる。 第1の子ども家庭福祉実践における「リスクとリジリエンスの視座」の有効性については、理論的な観点から検討した。結果としては、この視座が、これまでの子ども家庭福祉領域の援助において偏重されてきた、リスクというクライエントの負の側面だけでなく、リスクに直面するなかで良好に適応する力にも着目するという点において、理論上、有効であるという結論に至った。より具体的に言うならば、リスクとリジリエンスの視座は、深刻化する子どもと家族の問題の予防と早期発見・早期介入のためのより有効なサービスの構築や児童虐待等による重篤な事例の立ち直りに向けて、子ども本人と家族の力を引き出す援助への具体的な実践方策を探求するために今後の子ども家庭福祉領域における重要なものの見方となることが示唆された。 第2の「リスクとリジリエンスの視座」の実践レベルにおける援助のモデルを提示することについては、児童養護施設入所児と職員への聴き取り調査の結果から示唆された、子どもの良好な適応状態を推し進めるワーカーの働きかけの内容が、「子どもの安全を確保すること」、「子どもが自信をもつこと」等、先行研究におけるレジリエントな子どもの防御推進要因と近似のものが見受けられたことから、これらを実践のなかに組み込むことを提唱した。
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