平成21年度の研究として、前半ではソーシャルクオリティの考え方を地域福祉で活用していくための理論的な整理を行い、後半では理論的整理を踏まえて地域分析の試行を進めるという計画を立てた。 第1の研究成果は、地域福祉分析のための枠組みを仮説的に構築できたことである。ソーシャルクオリティの考え方は、ヨーロッパで生まれ、かつ、国レベルの分析を主に対象にしているので、直接わが国の地域福祉に用いることはできなかった。前半期ではソーシャルクオリティの4要素である、社会・経済的保障、インクルージョン、社会凝集性、エンパワメントを地域社会の分析に適用できるように考察を進めて、活用可能な枠組みをつくることができた。 第2の成果は、ソーシャルクオリティの考えかたをもとにした地域調査ができたことである。7月から月に1度のペースで福岡県内の社会福祉協議会の職員たちと地域福祉に関する研修会を催し、ソーシャルクオリティの考え方を深めた。また、地域分析に実際に使用するための共同作業を行った。具体的には、現在の地域分析の方法を出し合い、そこでの問題点を確認し、ソーシャルクオリティによる調査の理論的な利点を共有した。その上で、地域社会を調査するための項目や方法を検討し、調査票を作成、これを用いて、福岡県内のある市のソーシャルクオリティについての調査を行った。その後、調査結果の整理のための研修も実施した。参加者たちは、ソーシャルクオリティの内容の理解とその活用について、基礎を固めることができた。 ただし、ここでの調査は、子育てや交通問題など特定の領域にかかわるものであり、地域社会の質という全体的な調査というものではない。また、調査から得られた地域課題への取り組みには至っていない。さらに、この方法を他の地域に援用することが、どれだけ可能かも明確ではない。以上のことは、今後の検討点である。
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