平成22年度の計画として、前半では昨年度に福岡で行ったソーシャルクオリティ調査から得られた課題に対する検討を進めること、そして、後半では主に大阪の地域の住民組織やNPOに関しての調査に着手することを掲げた。 研究の成果として、第1にはソーシャルクオリティ調査で把握した課題に対する検討を進めることができた。これは、子育て、教育、交通、町内会という4つのテーマにもとづく調査であったが、それぞれに対する対応のアイディアを考察した。特にサービスの提供側と受け手に考え方のずれがあることがいくつかのケースでわかり、それを埋めていくための方法が考えられたことは、具体的なソーシャルクオリティの改善につながるものと言える。ただし、こうしたことを実際に当該地域にフィードバックして制度に反映させるまでには至っていない。 2点目として、地域の住民組織とNPOの関係についての調査を始めることができた。両者はともに生活世界の視座に立つべきものでありながら、その関係構築が課題となっている。地域の伝統的な価値・規範を背景とする住民組織と、特定のテーマの解決を目指すNPOでは組織の行動の仕方の違いがあることが確認された。しかし、両者のコミュニケーションをはかることができれば理解が促進されて、生活世界を高次化するための相乗効果を生み出す可能性があることも分かった。だが、まだこの調査は量的に充分に進められてはいないために、今後さらに多くの事例を集める必要がある。 第3の成果として、理論的な整理によって地域福祉を分析するための枠組みをこれまでよりも精緻化できた。これによって、ソーシャルクオリティの考え方を地域社会の分析だけでなく、地域での個人への援助実践や地域組織の検討にも援用できる可能性が広がった。
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