本研究は、高齢化が進行する我が国で今後患者数の増加が予想される認知症において、その生活支援や介護を担う患者家族の心理的ストレスの軽減、および介護職を核とするサービス提供者の業務効率化や支援業務遂行のための関係性の向上を最終的な目的とし、その実現のための方策として、ITを用いたコミュニケーション支援環境がもたらす有用性の評価指標を検討することを目的としている。 2年次である平成22年度は、1)患者家族を対象としたヒアリング調査、2)1年次に開発した、認知症介護関係者間コミュニケーション支援システムのユーザビリティに関する評価と対応策の検討、3)認知症介護関係者間コミュニケーション支援システムを用いた実証研究を行った。 実施項目1)ではストレス評価の指標作成を目的として、認知症患者家族会2法人(神奈川県茅ケ崎市)の協力を得て、日常生活上の認知症介護において、どのような時にどのような感情を抱くか、またそれが後にどのような心情をもたらすかといった点に関するヒアリング調査を行った。この調査はその後実施した評価指標案作成の基礎資料とした。実施項目2)では平成21年度に開発した認知症介護関係者間コミュニケーション支援システムを、神奈川県鎌倉市、神奈川県茅ケ崎市の介護施設の協力を得てテスト利用を行い、介護従事者が日常的に利用できるか評価した。その結果、実証システムの機能については概ね高い評価が得られた。しかしその一方、システム利用時の利便性向上のためにセキュリティレベルを緩和してほしいという意見も出た。施設長と検討した結果、操作上の簡便性を向上させるより利用者の個人情報保護を優先させることし、現状のセキュリティレベルを維持する方針とした。こうした結果を踏まえ、実施項目3)として認知症患者の家族と介護職との間での関係者間ごとに上記システムを投入し、実証研究としての情報システム利用を開始した。
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