脳卒中や大腿骨頸部骨折など、齢者が罹患する確率の高い疾患は、治療と介護を別々に提供しても問題は解決しない。そこで、治療と生活の連続したケア提供を目指した、ケアミックス提供体制の再構築が各地で試みられている。熊本市は、脳卒中および大腿骨頸部骨折治療・介護のケアミックス再設計の先進的事例として評価されている。 本研究は熊本市を先進事例として、経営学の観点からこれらの供給システムの事業ネットワーク構造を明らかにした。この再構築を目指す際に、実務上きわめて重要なことは、ケアミックス提供を支える事業ネットワークの再編をはからねばならないということである。事業ネットワークの調整機構は、「知覚」システム、「目標」システム、および「実施」システムという3種の下位システムを持つ。すなわち、情報をどのように知覚して、どのような目標を追求するのか、そして目標の実現のためにどのような活動を、どのようにおこなうかというシステムである。ネットワーク組織においては、情報ネットワークを通してネットワーク組織参加者によって情報が収集され、ネットワークを組むことによって得られる共通の利益のために、対等なパートナー関係において対話がなされることで、環境に対して柔軟に対応する。これらに関して、脳卒中と大腿骨頸部骨折とでは、対照的な調整機構を作っていることが明らかになった。 すなわち、脳卒中はきわめて多くの類型を持つため、目標システムの共有を中心にしたネットワークを構築しているのに対して、大腿骨頸部骨折は類型が少なく標準治療、標準介護が容易であるため、実施システムの標準化を中心にしたネットワークを構築していた。脳卒中、大腿骨頸部骨折ともに知覚システムとしての情報共有が重視されていることは共通して見られた。本研究で明らかになったことは、疾患特性が事業ネットワーク構造を規定するということである。他の疾患についても、その疾患特性によって事業ネットワークの構造が規定されることが推測される。
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