市民連帯型福祉社会を構築する上で重要な役割を果たすと考えられているサードセクター組織の実態を把握するために、イギリスの社会的企業の聞き取り調査を実施した。対象をコミュニティ・トランスポート事業(以下、CTと略す)に限定している。CTの全国組織であるコミュニティ・トランスポート・アソシエーションCTAロンドン事務所での聞き取り調査をはじめとして、ハックニーCT、ワンズワースCT、ウェストウェイCTという社会的企業での聞き取り調査並びに資料収集を実施した。いずれも、有給の事務職やコーディネーターを中心として有給パートタイム、ボランティアとを組み合わせ、社会的に公共交通から排除された人々に対する「地域の足」サービスを展開している。3組織とも設立後20~30年を経過しており、埋もれた社会的ニースに対するサービス供給という、まさに「市民連帯型福祉」の担い手として機能している。また、イギリス政府がサードセクターを重視した労働・福祉政策を推進しているため、CT事業が急速に拡大していることを踏まえ、CTAは法律その他の環境整備に奔走している実態も聞き取りから明らかとなった。とりわけ、CTで働く人々の運転免許や事業認可などに関わる法律制定のためのロビー活動を展開していることがインタヴューの中で語られた。他方、労働党政権が進めてきた「第3の道」政策の意義について文献研究を実施した。1990年代末に提起された「COMPACT」の時点ではまだ不明であったサードセクターへの関心が、今世紀に入ると急速に高まり、2005年のコミュニティ利益会社法制定や、2006年のサードセクター局(内閣府)の設置など、政府の態度が明確となっている。この動きは特筆すべきものであり、1997年以降10年余りにわたって探求されてきた「第3の道」について理論的研究を深め、その意義を明らかにする意味を確認できた。
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