本研究の全体構想は、現代社会における社会的排除の問題と関連の深い精神障害者の市民権や地域生活の質の確保をめぐり、精神保健医療・福祉領域のサービス体制のしくみと地域社会のありようについて理論的検討ならびに市民セクターに関する実証研究を行うことにある。初年度となる平成21年度は、これまで医療資本、医療役割が中心であった精神医療の地域化に関する政策動向の把握とともに現在進められている精神保健医療・福祉における諸改革の困難についての原因解明を行うことに主眼をおいた。そこで地方公立精神科病院、都市部精神科診療所、生活・就労支援の実践等、定点観測的に複数の専門職への聞き取り調査を実施すると同時に関連文献・資料による検討を行った。 そうした中(1)精神医療の公的責任、(2)障害者自立支援法、医療観察法による影響、(3)支援対象(精神疾患患者と社会的障害者)の再認識、(4)レジリアンスモデルの構築、これらの点から精神科臨床におけるパラダイムシフトとしての整理が必要であることを確認した。また、現在進められている地域移行を困難にしている原因解明について、新しいケアモデルリ構築との関係から促進要因と阻害要因とに着目するアプローチが考えられるが、地域或いは精神科病院のそれぞれが抱える問題を一般的に言及するにとどまらず、地域性とも表現される地域の実態を主要なファクターとして組み入れる分析手法が十分とられてきていないこと。さらに処遇困難層の広がりにおいて、医療観察法に代表されるケアの継続性や地域の受け皿不足のみに問題が集約される訳ではないこと、物質使用障害やパーソナリティ障害等地域のみならず医療側の受け入れ困難対象者の問題も深刻化している等々、司法精神医療の発展と精神医療の質が地域の支援方法と絡み新たな課題としてより明確になった。これら研究成果の一部を平成22年度学会にて報告発表を行う予定である。
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