研究概要 |
本研究の目的は、精神保健医療福祉領域のサービス体制のしくみづくりと地域社会のありようについての理論的検討ならびに市民セクターに関する実証研究をおこなうことにある。 本年は2年目にあたり、(1)脱施設化からみた精神保健医療改革の類型化、(2)ソーシャルガバナンスとしての事業体および市民セクターの役割、以上2点を主軸に検討を行った。具体的には「患者役割からの脱却」および「市民としての精神障害者獲得への実践」が、1970年代からいかなる方法で進められてきたのか、イタリアトリエステにおける精神保健医療改革の歴史的経過にあらためて着目し現地調査を試みた。まず,法180号(1978年)の公立精神科病院への入院廃止を実現させた要因として,病院解体運動が政治と宗教と強く結び付いただけでなく、病院の外にいる市民(学生)の登場が次の政治モデルの軸になりえたこと、さらにその他の要因として院内でのアッセンブレア(集団討論)や就労協同組合設立など市民モデルとしての基盤が作られつつあったことなどを確認した。その後改革は停滞の時期を経て2000年を前に病院の完全閉鎖が宣言される。その間イタリアにおいて地方自治改革(1990年法142号)やバッサニーニ法(1997年~99年)、社会的協同組合の法制化(1991年法381号)等々が進み、これらの影響を受け,トリエステでも90年代以降精神障害者が地域で参画するスポーツや音楽等をとおしてのアソシエーション活動が展開されている。加えて,精神医療を支えるシステムの中身として、フリーウリ=ヴェネツィア・ジュリアー州自体が特別自治区であり、少なくともこの時点で独自の財源および自治権が認められていたこともトリエステ地域精神保健システムの運用と関係していることが確認できた。
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