本研究は、精神保健医療福祉領域のサービス体制のしくみと地域社会のありようについての理論的検討ならびに市民セクターに関する実証研究を行うことを目的としている。本年度は(1)市民的公共性の概念における市民セクターの意義 (2)精神障害者と市民権との関係、以上2点を大枠として研究を進めてきた。 精神保健医療福祉における公共性の担い手に関する議論として、精神障害のある当事者への社会のまなざしをどのようにとらえることができるのか、精神障害者に対する社会的関心・関与の歴史的変遷にみる検討をこれまで行ってきた。3年目となる本年は、セクターと公共性との関連から、市民としての精神障害者の場の検証を中心に行った。 そのひとつに、精神保健医療福祉領域の事例対象としてある総合施設(障害者自立支援法定外)およびその指定管理事業者である団体をとりあげた。わが国における指定管理者制度の導入から一定期間が過ぎ、制度運用についても、公的セクターとの関係性において多角的な検証の必要性が問われている。しかし精神保健医療福祉の領域において特徴的なのは、第二種社会事業として位置付けられてきた精神障害者の旧社会復帰施設や事業の主たる提供主体は、医療法人や社会福祉法人等であり、公的セクターは、広域自治体として相談部門に特化していたことにある。そのことは、地域の中での参画者を一定の専門職あるいは家族の他には想定してこなかったことをも意味づけることが可能である。今後、公共性のさらなる議論にむけては、専門職や家族のネットワークのみならず、当事者らの参加が市民セクターとしての役割に展開できるかということにも強くかかっていることを確認した。例えば、参画と活動が、いかに地域に根差したコミュニティづくりの課題と連動し踏み込んでいくことができるかということ、あるいはそうしたネットワークの中に、多くの協働を含むゆるやかな関係づくりの側面を取り入れること、これらもまた必要である。
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