平成21年度は、当初、諸外国における早期精神保健教育の視察を計画していたが、インフルエンザが世界的に流行したため、今年度の研究は次の4点とした。(1)精神障害当事者の語り部研修の有効性の検証:研修の受講生に対して、質問紙票調査を実施した結果、研修をグループで行うことが効果的であることが示唆された。また、研修で自己の病いの体験を語りにすることで病いの客観化が図れ、社会改革の必要性を実感することが明らかになった。(2)精神障害当事者の語りが聞き手に及ぼす影響:精神障害当事者の語りの前後で聞き手である中学生・高校生に意識調査を行った結果、精神障害者に対する偏見の是正とともに、自己のメンタルヘルスに対する関心度が高まった。さらに、レクリエーションなどの良好接触体験が精神障害者との社会的距離の縮小に寄与することが明らかになった。(3)教育現場における教職員の「子どものメンタルヘルス」に関する意識の検証:中学校・高校の教職員を対象に質問紙票調査を実施した結果、教職員のメンタルヘルスリテラシーの程度があまり高くないものの、精神障害者に対する研修を強く望んでいることが明らかになった。そして、(4)精神障害当事者の語りに基づいた精神保健教育における補助教材の開発。これらの研究は、精神障害当事者の語りは中学生や高校生の精神障害者に対する偏見を是正し、自己のメンタルヘルスの関心度を高める効果を明らかにした点で有用といえる。今後、本年度に作成した補助教材の有効性についても検証する必要がある。尚、上記の研究のまとめとして、「精神障害当事者の『語り』の有効性に関する研究』と題する平成21年度研究成果報告書を作成した。
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