2009年度は、調査対象としている脳性麻痺者Aさんの1996年から1998年頃に絞って、Aさんが通所する障害者福祉サービス事業所の職員が、Aさんのひとり暮らしとしての自立生活実現に向けて、どのように関わっていたのか明らかにするために研究を実施した。研究計画段階では、2000年から2002年のAさんのプロセズを解明する計画を立てたが、フィールドワークを実施する中で、それ以前の事業所職員による支援内容を明らかにしなければ、以降のAさんのプロセスを記述・説明できないことが明白になったため、計画を変更した。データ分析の結果、職員はAさんに対して、"本人任せ"と呼べる関わり方をしていたことが、明らかになった。本人任せは、障害者のピアサポートと本人によるプロセスの統制を重視した関わりであり、障害者の自立生活パラダイムを基盤にしている。しかしそれは、自立生活パラダイムの直輸入ではなく、一部の主張が緩和され事業所の文脈にフィットするよう調整されて受容されたものだった。また、本人任せの背景には、利用者の主体性の尊重と個別性配慮の欠如という、ソーシャルワークで重視される価値が関係していた点も明らかになった。自立生活実現過程の支援の実際を明らかにできた点、さらに、ソーシャルワークの観点からその支援を考察できた点は、当該年度の研究の意義である。 また本研究では、ソーシャルワークにおける研究法としての事例研究法の試案を編み出すことも研究目的としていたが、現段階での試案を論文として示すことができた。利用者のライフヒストリーや人と環境の相互作用というソーシャルワークで重視される視点、及び、フィールドワークや概念の生成・転用など質的研究法の特性、この双方を組み合わせて事例研究の方法論を示せた点は、これまでにない独自性と新規性を兼ね備えたものだと考える。
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