研究概要 |
メンタルヘルス問題のある親による児童虐待に関連する研究の結果,児童虐待に占める当該事例は約半数を占めること,メンタルヘルス問題の内訳は,うつ状態が4分の1を占めるものの詳細不明なものも同程度みられ,精神科医療機関を受診にしていない層が多いことが明らかになった.また,児童福祉における当該事例の支援者には負担感やストレスが高いことがわかった.メンタルヘルス問題に関する研修が乏しいこと,メンタルヘルス問題もしくは児童虐待問題に対応できる人材の配置が不十分であること,精神保健医療福祉と児童福祉との連携が乏しいことなどがその背景にみられた.一方,精神保健福祉士への調査からは,児童虐待事例に関する支援経験が乏しく虐待に関する研修も十分には受けていないこと,そのため虐待事例に接しても虐待と認識しない傾向があることが明らかになった.しかし,先進的な支援活動例の調査から,適切なチームマネジメント下ではスタッフの安心感や主体性が増し,連携が活性化する可能性も示された.ここから,専門職の配置,メンタルヘルス問題と児童虐待に関する研修機会,要保護児童対策地域協議会への精神保健福祉士などの参画といった協働機会を増加させることは,児童福祉と精神保健福祉の連携の強化につながる可能性が示唆された.さらに,児童虐待およびメンタルヘルス問題への支援機能を併せ持つ包括的な支援アプローチの必要性が導き出され,そのためのチームマネジメントのあり方に関する研究や,重度精神障害者の地域生活支援の方策として注目される包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment=ACT)の応用などによる,当該事例への具体的な支援方策検討へと研究を展開する必要性が明らかになった. 最終年度にあたる本年度は,これまでの調査研究で得られたこれらの知見をもとに投稿論文および学会発表の形で公表すること,調査結果を調査協力者にフィードバックしながら具体的な改善策について協議を行うこと,さらに今後の研究展開に向けた準備を進めることを主眼に研究を進めた.
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