本年度は、北京市石景区内でデイサービス事業を展開し始めたNGOを対象に、主にNGOの主任へ当該サービスの状況、運営方式などについて聞き取り調査をおこなった。その結果、デイサービスの運営は、NGOと街道事務所、社区居民委員会と連携しながら実施されており、街道事務所からの事業をNGOの本体が受託し、両組織が協働で運営と管理をおこなっていることが明らかになった。これは中国都市部における新しい地域福祉活動の展開と考えられ、今後、NGOと行政組織の協働がどのように展開されていくかが注視された。高齢者への在宅サービスの提供は、社区居民委員会からの高齢者の情報がNGOへ提供され、それに基づいてサービス提供のための訪問調査活動が実施されていることが明らかになった。今後のNGO、街道事務所、社区居民委員会の3者の協働が注目された。 また調査の結果、NGOのスタッフは大学で「社会工作(ソーシャルワーク)」の課程を修了した者であることが明らかになった。中国のソーシャルワーカーの養成は、以前から香港の大学や専門学校でおこなわれており、卒業生の多くが福祉関係の仕事やNGOなどの非営利組織に従事している。香港と中国大陸とは体制が異なるため単純な比較はできないが、数年前まで「社会工作(ソーシャルワーク)」いう言葉が大陸ではあまり普及していなかったことを考えると、今後大陸においてもソーシャルワーク教育、研究そして実践活動が盛んになると考えられた。同時に、中国の国立大学の公共政策学院、NGO研究センター、社会公益センターなどでは、そこで学ぶ大学院生の多くが研究活動の一環としてNGOで研修していることがわかった。この状況からも中国のNGOは国民の社会問題や生活問題を解決する手段としてのみ存在しているのではなく、雇用機会を提供するための組織にも成りつつあると考えられた。
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