本研究は、性別、年齢などの個人属性により、高齢者の社会関係の多寡や、社会関係が心理的well-being(WB)に与える効果がどのように異なるかを明らかにし、多様な層の高齢者ごとに、WB維持・向上のために効果的な方策を明らかにすることを目的とする。日本の高齢者を対象とする先行研究についてシステマティックレビューを行った結果、属性の中では性別に着目した研究が比較的多いが、社会関係とWBとの関連の強さにおける性差の統計的有意性までを確認した研究は少なく、研究によって社会関係やWBの測定方法も異なるため、統一的な結論を得ることが難しかった。 そこで、全国の70歳以上を対象に1999年と2002年に実施したパネル調査のデータを用いて、99年の社会関係から2時点のWBへの効果が、性別と標本の種類(99年の新規標本、以前からの追跡標本)による4群で異なるかを、共分散構造分析の多母集団同時分析により検討した。WBは「人生満足度」「抑うつ」の2種類、社会関係は、量的な社会的ネットワークの指標を観測変数とする「子どもとの交流」「(友人・近隣との)私的交流」「社会参加」の3因子と、配偶者、就労の有無であった。因子平均でみると、「私的交流」は男性より女性、「社会参加」は女性より男性で多く行われていた。経済・健康状態の影響を考慮して社会関係のWBへの効果をみた結果、標本やWBの測定時点による違いはあるが、概して「社会参加」は男性、「子どもとの交流」「私的交流」は女性においてよりWBを高めており、この傾向は抑うつより人生満足度について当てはまった。本結果は、高齢期のWB維持の源泉が、男女で異なる可能性を示唆しているが、性別によって偏りのある年齢や社会経済的地位によるWBへの効果の差や、属性による差がそれぞれの社会関係の果たすどのような機能の違いによるのかの解明が、今後の課題である。
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