本研究は、沖縄の特定地域から国内外への人々の移動と定着の過程を対象にした一連の調査研究を受けて立案されており、中年・老年期を迎えた都市移住者たちがつくる同郷コミュニティ(同郷会など同郷人どうしのつながり)の諸実践に着目する。そのさい、移住者たちがおかれた状況に適合したつながりが編み出されてきた動態的な過程を成員たちのライフサイクルと交叉させて考察する。 本年度は昨年度の成果をふまえ、那覇および沖縄島中部都市圏における同郷コミュニティを対象にして、以下の調査を継続した。1.那覇および中部で組織された4つの同郷会の会合での参与観察。それぞれの会合における相互行為について記録を重ねながら、その特質を見極めた。2.母村行事への参与観察と中心的担い手たちへのインタビュー。旧暦7月に女性たちによって担われる母村の伝統行事には、ふるさとを離れた中年・老年期の女性たちも多数参加する。彼女たちの母村回帰指向によって支えられているこの行事を昨年に引き続き詳細に記録し、その集合原理を探った。また、これまで年中行事を中心になって担ってきた老年期女性を対象にインタビューを実施した。3.生活史調査。各同郷会の成員を対象にして出郷から現在に至るライフヒストーリーの聞きとりを継続した。4.関連資料の収集と考察。近現代沖縄の社会変動のなかで編成されてきた同郷会に関連する資料を広く集めた。 かつて青壮年期にあった同郷人たちの結びつきは、移動先での職住確保といった当面の生活を支えるために求められたが、老年期に至った人たちによって構成された同郷コミュニティでは、身体の衰えや家族の介護や死別といった喪失を体験した成員たちがふるさととの連続性を確認し合う行為が中心になっていることがうかがえた。
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