本研究は、沖縄の特定地域から国内外への人々の移動と定着の過程を対象にした一連の調査研究を受けて立案されており、中年・老年期を迎えた都市移住者たちがつくる同郷コミュニティ(同郷会など同郷人どうしのつながり)の諸実践に着目する。そのさい、移住者たちがおかれた状況に適合したつながりを編み出される動態的な過程を成員たちのライフサイクルと交叉させて考察することを目指す。本年度は昨年度までの成果をふまえ、那覇および沖縄島中部都市圏における同郷コミュニティを対象にして、以下の調査を展開した。 1. 那覇および中部で組織された同郷会のうち、とくに老年期の女性たちが集う2つの同郷会に着目して参与観察を重ねた。70~80代の女性たちによって構成された同郷会の会合でみられた相互行為の特徴として、つぎの3点を指摘できる。(1)老いへの対応。自分自身の身体の衰え、伴侶の介護や死別体験などを語りあうことをとおして相互に老いへの対応の仕方をまなぶ。とくに先行者は後続者のモデルとなっている。(2)子ども時代の母村への心理的回帰。他郷に暮らす者どうしがかつてのふるさとでの共通体験を語りあうことで自分たちの根元(ルーツ)を確認しあう。このとき、場所にまつわる体験を語りあうことがたしかな手応えを与えることがうかがえた。(3)笑いの効用。会合では笑いの渦がくりかえしでき、笑いによる場への没入が日常の不安や緊張からの一時的解放をもたらしている。 2. 母村行事への参与観察と担い手たちへのインタビューの継続。都市移住者たちの参加によって支えられている伝統行事を引き続き記録してその集合原理を探るとともに、その他の年中行事でも参与観察を重ね、それらの中心的担い手である神役の女性たちを対象にインタビューを重ねた。また、これまで年中行事を支えてきた世代を対象に、戦前の紡績女工体験についてまとめた。 3. 同郷会の成員を対象にした生活史調査と関連資料の収集を継続した。
|