平成21年度に予定されていたニューヨークでのフィールドワーク及び研究打ち合わせの実施について現地の相手先(ニューヨーク市立大学)の都合により、平成22年度に延期されたため「繰越し申請」を行なった。 平成22年度に同上の研究を遂行するため、平成23年3月25日より同3月31日の期間、ニューヨーク市における都市フィールドワークを行い、ニューヨーク市立大学大学院センター及びコロンビア大学精神医学部地域精神医療分野との研究協議を実施した。なお、研究分担者の北山修も同上の海外フィールドワークに参加の予定であったが、東北大地震による波及のため出張は取りやめとなった。海外出張の経費は文献調査研究に振り替え、北山の研究内容については、研究代表者の南より同上の研究機関での代読を行い、協議は実施した。 以上の繰越し申請による海外出張及び文献調査によって、都市の大規模被災の経験を相互に比較考察する方法としての精神分析の概念枠組みが有効であることが明らかになり、本研究の理論的な構想について、国際的な観点からの批判的検証を行う事が出来た。これらの国際的な協議の場で同時期に日本の東日本大震災の話題が取り上げられることとなり、アメリカ合衆国のニューオリンズにおけるカタリーナ・ハリケーンによる都市の浸水とその後に水面下の土地に移住し続けたい住民の問題(合理的な理由だけはない、土地への愛着)、第2次世界大戦後のワルシャワ市の復興過程で、戦災前と同じ建物とその配列を再建する事へ市民が固執した事例などが取り上げられ、広島のケースとの比較考察がなされた。これらの議論は、都市をクライアントとしての精神分析的解釈と臨床的な関与が可能である事を示唆しており、今後の研究展開に寄与するところが大であった。
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