研究概要 |
本年度は,研修課題に即し,高齢者の長寿,健康,適応にかかわる文献・資料の探索を行いつつ,以下の研究成果を得た. まず,中高年者を対象とした長期断疫学研究のデータを用いて,研究課題と関連する分析を行い,結果をいくつかの学会で発表した.例えば,1) 加齢にしたがって「死への恐怖」は低下すること,2) 認知機能障害が疑われる前期高齢者の短期記憶の低下は,後期高齢者よりも顕著であること,3) 「孤独死」のような社会的ネットワークからの離脱は,女性高齢者よりも男性高齢者に生じやすい現象であること,などである.これらの知見は,老化への適応と高齢者のQOLや長寿との関連を示唆するものである. さらに,「孫世代」である大学生を対象とした実験から得られた以下の結果も学会で発表した.すなわち,1) 血縁関係の識別には,子の性別・お年齢とともに,認知者の他者意識が関与すること,また,2) 友人から受けるソーシャル・サポートは,友人への利他行動には関係するが,他者一般への利他行動に敷衍されない一方で,内的自意識は,友人と他者一般への利他的行動のどちらにも関係していることが明らかになった.これらの知見は,対人関係の形成が,血縁度や親密性に影響を受けることを示唆するものであり,高齢者の繁殖成功度や適応を検討する際の手掛かりとなるものである. 加えて本年度は,大学生および短期大学生を対象に,高齢者イメージや老親扶養意識などに関する調査も行った.来年度はこのデータを分析し,結果を学会等で発表する予定である.
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