本研究は、3年計画で、マルチエージェント・シミュレーション(MAS)の手法を用いて人文社会科学の基礎モデルを構築することを構想しており、その初年度として次の3つのアプローチを進めている。 第1は学問領域の基礎概念や基礎理論をモデル化していくアプローチである。心理学的な人間行動特性の5因子Big5を組み込んだエージェント・モデルの改良としてアダム・スミスの『道徳感情論』に基づく因子形成モデルとその発展計である国際関係モデルをはじめ、協調モデルなどの基礎モデルを構築した。 第2は、人間が参加して仮想的な世界を体験するゲーミング・シミュレーション(GS)をMASのモデルとして作成するアプローチである。学生の協力・参加を得てGSを実施し、既往モデルの改良を行っている。 第3は、システム・ダイナミックス(SD)の都市モデルや世界モデルなどをMASモデルと統合してMAS-SD世界モデルを構築するアプローチである。これまで使用してきたSDのソフトでSDのモデルをMASのモデルに自動的に変換することを可能にし、世界モデルのMAS化、人口集積地から都市形成モデルを構築した。 上記の3つのモデルを作成してきている。MASモデルの特徴はボトムアップ的な創発にあるので、最も基礎的なモデルから重点的に構築している。 本研究では、内外で飛躍的な発展を遂げつつあるMASによる人工社会研究の中でも、特に人文社会科学の基礎的なMASモデルの体系的な構築を目指している。現在はMASが人文社会科学に導入される黎明期であると考えており、様々な角度から個別的な研究テーマへの適応が最先端の試みとして人文社会科学の色々な分野でなされてきているが、MASによって人文社会科学を体系的に学ぶことはできない状態にある。このような段階において基礎的なMAS人工社会モデルの構築は、人文社会科学分野全般でのMAS研究の進展に大きな意義があるものと思われる。
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