心理学の領域では、親密関係はミクロレベルで捉えられることが多い。すなわち誰とどのように関係を結びそこから何を得るかは個人の問題とみなされる傾向がある。しかし、親密関係はそれを取り巻く社会の有ようと密接に関わっており、それゆえ時代や文化によって親密関係の様相や意義は異なるのである。本研究は、今日の社会・個人に混在している多層な人間関係の中から、自由意思によって関係を結ぶ相手を選択する現代型人間関係と、自由意思による選択権がない伝統型人間関係を取り上げ、そこでの人間関係の形成・維持のプロセスを探り、共通点と相違点を明らかにすることを目的とした。現代型人間関係はSNS(mixi)上での交流についてインターネット調査を首都圏(成人)と関西圏(大学生)で、また伝統型人間関係については、三重県鳥羽市の離島答志(寝屋子)での数度にわたる聞き取り調査を実施した。その結果、現代型伝統型のどちらも親密関係は対面での交流を基本としていること、親密関係は安定的であるかぎり、個人が安心・心理的安全を感じ、いわゆる安寧を提供する機能を担っていること、しかし自己選択によって親密関係相手を選択する現代型においては、相手もまたつきあう他者を選択でき、そのため自分が選ばれなくなる可能性があるという不安定さを必然的にかかえるため、対面交流だけでなく常時他者に向けてアンテナをはるべく、インターネットが補助手段として使用されていることが判明した。これに対して、伝統型においてはつきあう他者は慣習によって割り当てられ離脱できないシステムとなっており、人間関係の安定性がもたらす肯定的側面と否定的側面の双方が認められた。
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