研究概要 |
本研究の目的は、EPAで来日しているアジア系看護師・介護福祉士候補者(以下候補者)の異文化体験を分析し、制度というマクロと当事者の心理の両視点を取り入れた異文化接触理論構築を行い、今後の受け入れ環境改善を目指すことである。3年間で国内調査(病院15、老人保健施設3,特別養護老人施設14を訪問、インドネシア人看護師候補者33人、介護福祉士候補者44人と面接)、2回のインドネシア調査及び、日本での政府関係(厚生労働省、JICWELS)への聞き取りを行った。 2011年度の成果は、(1)候補者をめぐるマクロの問題については、日本とインドネシア政府間のEPA制度に対する意味づけのズレに焦点をあて原因を明らかにし論文にまとめた(多文化関係学,第8号)。(2)看護師と介護福祉士候補者の日本体験を検討し、特徴を明らかにした。マクロとマイクロの連携モデルの視点からのインドネシア人看護師・介護福祉士候補者の日本体験の一部は、日本学術会議フォーラム「アジア・太平洋地域におけるトランスナショナリズムの展開-社会科学からの展望」にて発表した(「学術の動向、17巻2号)。候補者の日本体験の特徴は、仕事に関わる規律やモラル、日本人のコミュニケーションスタイル(高文脈依存、上下関係重視)に違和感を語る人が多いが、それ以外の側面では差異があまり表明されなかったことである。その原因は、(1)職場では教育担当者以外の日本人との付き合いは薄く差異を認識する機会は少なかった。(2)候補者のストレスの源泉は日本語習得と国家試験の受験準備に集中。(3)候補者は仕事のやり方に日本と差を認める人もいたが、認めない人も多かった。これはインドネシアでどういう経験をし、日本の職場でどういう仕事をしているかで個々人の見方が違っていた。文化接触研究では、集団の差異を前提として文化差を問うより、状況限定的に「来日外国人がホスト側との出会いの場で差異をどう乗り越えているのかを問う」研究の方が実りあるという示唆が得られた。
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