研究概要 |
本年度は,次の3点について研究を行った。(1)複数テキストの「批判的統合」概念の明確化:複数テキスト読解を介して論争的ディスコースに参加する上でその鍵となる意見産出は,各テキストに対する評価を踏まえた(批判的)統合過程を経ると考えられる。しかし,従来の研究ではそうした統合とテキスト評価を踏まえない(相補的)統合の概念的区別が十分ではなかった。そこで,本年度はまず,複数テキストの統合に関する先行研究の理論や知見を広くレビューし,「批判的統合」概念の明確化を行った。(2)複数テキスト読解を介した意見産出「過程」の解明:複数テキスト読解を介した意見産出「過程」の一端を明らかにするために,テキスト評価が批判的統合において果たす役割を実験的に調べた。具体的には,大学生84名を2(読解時:評価促進あり,なし)×2(論述時:評価促進あり,なし)の4条件に割り振って,対立する2つのテキストを読んでもらい,テキスト評価の実験的促進が批判的統合に及ぼす効果を検討した。実験の結果,論述時の評価促進が(生成した意見文の中での)出所の明示を促すことを明らかにした。(3)複数テキスト読解を介した意見産出「能力」の解明:複数テキスト読解を介した意見産出に必要な能力の1つとして,出所参照(sourcing)に着目し,それと批判的統合の関係を実験的に調べた。具体的には,大学生に,出所情報を操作した複数のテキストを読んでもらい,それが批判的統合の質にどう影響するか調べた。この実験で得られたデータを現在分析中である。
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