研究概要 |
本年度は,次の3点について実証的な研究を行った。1.論争的な複数テキストの批判的統合の過程でテキストの出所情報を参照し利用する大学生の能力を調べるために昨年度末に行った実験データを分析した。分析の結果,大学生はテキスト間の対立を裁定するために出所情報を参照し利用することができるが,その利用は限定的であり,多くの場合,明示的・方略的ではないことが示された。この結果については現在,学術雑誌に投稿中である。2.複数テキスト読解を介して論争的ディスコースに参加する上で大学生にどのような問題があるのかを明らかにするために,批判的統合の枠組みに基づいて実験を行った。すなわち,大学生を対象に論争的な複数テキストを読んで議論文を産出してもらう課題を実施し,彼らが議論文の中で対立する論者の議論をどう裁定しているか,そこに書かれた論争の理解はどのように関係しているか,論争の理解を促す読解目標を与えることによって裁定のし方はどう改善するかを調べた。この実験で得られたデータについては現在,分析中である。3.複数テキスト読解を踏まえて議論文を産出する大学生の能力やスキルは,それまでの学校教育で彼らがどのような教育経験を受けてきたかにも大きく左右されると考えた。そこで,複数テキスト処理に関する彼らの教育経験を明らかにするための一環として,小学校から高等学校までの国語・社会(地理・歴史・公民)の学習指導要領とその解説の分析を行った。これについては現在も継続中である。
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