研究課題/領域番号 |
21530682
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研究機関 | 滋賀大学 |
研究代表者 |
近藤 文里 滋賀大学, 教育学部, 教授 (00133489)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 発達障害 / ADHD / 絵本 / 読み聞かせ |
研究概要 |
24年度に実施した研究は、絵本表現のなかでオノマトペがどのような働きをしているのか明らかにすることを目的としたものであった。この点に関して、本研究で得られた成果は、絵本におけるオノマトペの働きは4つあることが明らかになったことである。 まず、その1つは、オノマトペはある場面の絵(視覚)に音(聴覚)を対応させるうえで感性的に最も適合した言葉となっていることである。第2は、人や物の変容について、運動や時間をうまく表現するうえでオノマトペが使われていることである。第3は、意味的にまとまりがあるエピソードの区切りにオノマトペが入れられると、1つのエピソードに区切りがついたことを示す働きがあることである。第4は、同じオノマトペの繰り返しが背景音楽の効果をつくりだし、状況がはらむ雰囲気などを伝える働きがあることである。 また、24年度の研究では、ADHDをはじめとする発達障害を対象とした場合、絵本の読み聞かせにおいて注意すべき点が明らかになった。それは、発達障害児が共通してもつ注意の障害に関連した問題である。視覚的な注意を促すために、読み聞かせする者は絵本の絵において見逃しやすい小さな刺激を指でさすなどの配慮が必要であること。また、聞き手の認知の速度を配慮してページをめくること。さらに、読み手自身が場面毎に起こる事に表情豊かに読み聞かせること、が大切であることが示唆された。 絵本の読み聞かせは読み手と聞き手の相互作用で成り立つと言われるが、発達障害児においてオノマトペの効果が生かされるかどうかは、このような読み手と聞き手の相互作用を重視した読み聞かせが重要であることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、ADHD児を対象とした絵本の読み聞かせにおいて、絵本の特性がもつ効果について検討することにある。このことを検討するために、集団での絵本の読み聞かせ場面をビデオ分析する方法をとった。 本研究では、絵本の特性について次の3点に焦点をあてることとした。まず、第1に、1場面完結型の絵本か、連続する場面で話が構成されている絵本かについて比較検討することである。第2に、文章表現におけるオノマトペ(擬音語、擬態語)表現が絵本の理解にどのような効果があるのか明らかにすることである。そして、第3に、絵と文の意味的関連性が強い絵本か否かの違いについて検討することであった。 これらの目的に関して、現在までの到達点は以下の通りである。まず、第1の目的に関連して、1場面完結型の絵本か、連続する場面で構成されている絵本の読み聞かせ結果を比較検討したところ、ADHD児のみならず健常児においても1場面完結型の絵本に注意が喚起されやすく、絵本の理解がしやすいことが認められた。また、連続する場面で構成される絵本でも、繰り返し絵本を読み聞かせると、絵本の理解が促進されることが明らかになった。第2の目的に関連しては、絵本の理解におけるオノマトペ表現の効果は4つの点で効果があることが明らかになった(4つの効果は研究実績の欄を参照)。 研究で残された課題は、第3の目的に関連した問題である。すなわち、絵と文の意味的関連性が強い絵本か否かの違いについて明らかにすることである。絵と文の意味的関連性が高いほど物語の理解は容易であることは予測できるが、注意や記憶の機能に弱さをもつADHD児の場合はどのような行動になって現れるのか、また、どのような読み手の支援が必要なのかを明らかにする必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
絵と文の意味的関連性がどの程度ADHD児の注意喚起に影響するのかについて検討することが今後の研究の主な課題として残されている。用いる絵本は、これらの点において対照的な複数の絵本を子どもに読み聞かせ、読み聞かせ過程の反応をビデオ分析することで明らかにする。実施に関しては、従来通り、ADHD児を対象とした継続的な読み聞かせ実践を行い、そのビデオ記録を分析する。また、分析カテゴリーはこれまでの研究でも同様な分析を行ってきたところの3側面である。つまり、子どもの視点、発話、動作である。各側面に関しては、複数の行動指標を設けてその生起頻度を検討する(行動指標については省略)。 また、今後の研究では、これまでの研究で明らかになった支援の方法について、さらに詳細に検討する課題が残されている。これまで実施した研究では、ADHD児をはじめとする発達障害児が読み聞かせの対象である場合は、絵本を繰り返し読み聞かせる効果が認められた。また、視覚的な注意を促すために、読み聞かせする者は絵本の絵において見逃しやすい小さな刺激を指でさすなどの配慮が必要であることが示唆された。さらに、聞き手の認知の速度を配慮してページをめくることや、場面毎に起こる事に合わせて読み手自身の表情の表出が重要であることが示唆された。 このような支援を行う場合、どのような呈示方法がより有効であるかについては、さらに研究の蓄積が必要である。これらの支援方法に関しては異なる条件を設けて読み聞かせを行い、そこで見られる子どもの反応の比較検討をすることで、その効果を分析するという方策が考えられる。
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