研究概要 |
幼児の教示行為は,社会的認知能力に関する発達心理学的な考察を深める上で重要なものである。本研究ではこれまで,日常保育場面の観察を通して,教示行為を「知識・技能・規範性の不足している他者の誤った行為を修正する意図的行為」と広義に定義し,年長児になると「他者の知識・技能・規範性の向上を意図した」教示行為も見られることを明らかにしてきた。また,その変化には,心の理論や実行機能が重要な役割を果たしていることについても確かめた。それに加えて,今年度,教示行為の発達には子ども自身が学習者となった際,知識を学んだり技能を習得したりすることをどのように理解しているのかという素朴理論が関与していると考え,技能習得に関する幼児の理解についてインタビューを用いて検討した。 保育園の年中児と年長児を対象に,熟達した技能(ビュンビュンごま,けん玉)を取り上げて,A)上達時期(いつからそんなに上手になったか),B)上達に要した時間(練習を始めてすぐに上達したか,時間がかかったか),C)被教示経験(誰かに教えてもらったことがあるか),D)上達の工夫(上手になるには,どうしたらいいかを他園の子どもに教えて)を質問した。年中児に比べ,年長児の方が1)上達した時期を特定し,2)上達には時間がかかったと理解し,3)他者に教えられたことを想起できた。また,上達するための工夫として,年中児は「がんばって練習する」といった一般的な回答が多いのに対して,年長児は具体的な内容をあげたり,練習の手順を明示したりしていた。後者の具体的な内容をあげた幼児は,実際に他者に教える際,学習者を主体にした教え方ができていたことも明らかになった。
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