1.平成22年度の研究においては、先行研究のレビューをおこない、操作的思考が従来のルール学習研究において十分に検討されてこなかった理由を考察した。さらに、操作的思考の分類枠組みを提起し、それに基づいて関連研究の整理をおこなった。これらの成集は『教授学習心理学研究』において公表される予定である。 2.操作的思考のうち「逆操作」に相当する「対称性バイアス」とPeirceのアブダクション(abduction)やArietiの古論理(paleologic)に見られる「発見的推論」「創造的思考」との関連を示唆する研究を参考にして、知識の活用の中でも「発見的推論」に焦点を定めて研究を進めるという方向が確定した。 3.予備調査の結果より、ルール命題で表現される関係構造がその操作可能性に違いをもたらす可能性が示唆されていたので、属性間の連合関係を表す「属性ルール」とカテゴリー包含関係を示す「カテゴリールール」を対比する形で、操作可能性および発見的推論に及ぼす影響を実験的に検討した。得られた結果は以下の通り、 (1)属性ルールの操作可能性は相対的に高く、操作された命題でも信頼度評定は低下しなかった。 (2)属性ルールを教示された条件の方が、発見的推論を積極的に行う傾向が見られた。 (3)カテゴリールールの逆命題に対して高い信頼度評定を付与することと、発見的推論を積極的に行うことの間に関連がある事が示された。このことは本研究が、対称性バイアスとアブダクションの関連に関する仮説に実証的な支持を与えたことを意味する。 (4)属性ルールについては、(3)で示されたものとはむしろ逆の関係があることが示され、この結果の解釈とその意義については今後の問題として残された。 以上の成果は、『東北大学教育学部研究年報』において公表される予定である。
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