1.前年度の研究より、操作的思考およびその成果である発見的推論(アブダクション)の自発的生起はまれにしかみられず、その促進が困難であるという問題点が指摘された。この点をふまえ、発見的推論を自発的に行った「事例」についてどのような評価が成されるのかを検討した。教員養成大学生を対象に、発見的推論に対する評価についてアンケート研究をおこなったところ、学習態度や学習意欲という側面では評価が高いものの、科学的概念の理解や推論結果の妥当性という側面については、低い評価しか与えない傾向のあることがわかった。この傾向は、知識水準の低い理科教師志望学生において顕著であった。これらの研究成果は『東北大学大学院教育学研究科研究年報』で公表される予定である。 2.ルール学習における事例の役割の一つとして、思考の方向性の制御が考えられる。そこで、操作的思考を促進する事例として「アブダクション事例」の提案をおこない、その教授効果を実験的に検討した。アブダクション事例とは、通常の「代入例」のように、ルールの推論方向に沿った形で事例化されたものではなく、ルールの逆命題、すなわち逆の推論方向に沿った形で事例化されたものを指す。科学的概念に関するルールを教示する場面を設定し、アブダクション事例を用いた場合と通常の代入例を用いた場合を比較した。その結果、特にルールに対する事前信頼度の低い学習者にとつて「アブダクション事例」の提示が効果的である可能性が示された。
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