研究概要 |
本年度は、主として以下の2つの研究を行った。1つは「自由記述のカテゴリ化に伴う観点の飽和度としての捕獲率」の提案である。心理学を初めとして, 科学的なアプローチを重視してきた様々な学問分野で近年注目を集めるようになってきた研究の1つに, 質的研究がある. 質的研究では一般的に, その後の理論を構築するためにカテゴリ化を伴う知見を収集する.しかし現状では, 質的研究の評価にとって重要な知見収集の程度については主観的判断に依存している.そこで本研究では, 任意の質的研究法の観点収集の最中に知見数と飽和感を表す知見の捕獲率を推定する方法を提案した.分析には, 2つの企業に対する2006年から2010年までの自由記述の印象調査の回答を用い, 多くの知見数が集まるまでに必要な精読量を明らかにした。 2つ目は「多特性多方法行列に対する確認的因子分析モデルにおいて信頼性および妥当性の考察を一通りに定める方法」である。多特性多方法行列を扱う確認的因子分析モデルにおいて,CT-CMモデルは信頼性と収束的・弁別的妥当性の解釈が一通りに定まるというメリットがあるが,識別されない場合が多い。一方で,CT-C (M-1) モデルは,識別は保証されるものの,基準となる方法の選択に依存して,同一データに対して信頼性と妥当性の解釈が変わってしまうという欠点がある。そこで本論文では,CT-CMモデルを基に,方法因子の因子得点の和が0 という制約(Kenny & Kashy, 1992)を導入することで,基準となる方法を決める必要がなく,信頼性や妥当性の解釈が一通りに定まるモデルを提案する。主要文献より引用した12の相関行列に3種類のモデルを適用した結果と,シミュレーション研究の結果から,提案モデルは信頼性と妥当性に関する解釈が一通りに定まり,識別の可能性も高く,有望なモデルであることが示唆された。
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