研究概要 |
本研究の教育心理学上及び教育実践上の重要性を,以下に整理する。 1.「認知的/社会的文脈を統合した教授方略」の開発:教育心理学の領域では,20世紀半ば以降の認知論的アプローチの立場から,個人内の表象や知識構造の解明に焦点が当てられてきた(e.g.,概念変容モデル(Hashweh,1988))。一方,20世紀後半以降の社会文化論的アプローチの立場から,協同場面における社会・文化的諸変数との相互関連に焦点が当てられてきた(e.g.,参加者の構造(Cornelius & Herrenkohl,2004)。2項対立的な流れの中,認知論的アプローチと社会文化論的アプローチの知見を統合的に捉える,という理論的想定を実証的に検討し,教授方略を開発した点に意義が見出せる。 2.科学的リテラシーと動機づけの促進:PISA2006では,日本の生徒は,実生活で遭遇する複雑な問題状況を解決する「科学的リテラシー」,及び科学を学ぼうとする「動機づけ」が低い,という国際的順位以上の問題点が浮き彫りにされた(国立教育施策研究所,2008)。そこで,科学的リテラシー及び動機づけを促す要因を教授方略に組み込んだ点が重要である。 上記の理論的枠組みを踏まえ,実際の教育実践において,本研究では,小・中・高等学校を対象とし,「認知的文脈」の側面からは,新学習指導要領における教科領域・単元の教授内容の特徴,学習者の領域固有の先行概念等を考慮し,「社会的文脈」の側面からは,協同的探求活動を促す足場作り,参加者の構造による機能的分化等を考慮し,両文脈を統合した理科カリキュラムを構築した。授業を通して実証的に検討した結果,当該教授方略は,科学的な疑問を認識し,科学的な要素を類推する,という科学的リテラシーを促進するとともに,学習観(科学的手続きの重視など)や,メタ認知(プランニングなど)の変化を促す,という教授効果が見出された。
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