本研究は、2~5歳までの幼児とその養育者を対象に、養育者の明示的な心的状態に関連する言語インプットと子の心の理論の関係を量的な縦断データに基づいて検討することによって、養育者の言語インプットの量的な違いが日本の幼児の心の理論発達の差に関連していることを明らかにすることを目的としたものである。第一次調査および実験として、40組の母子を対象に、絵本課題を実施し、母親が絵本にでてくる状況を描写する際に、どのような心的状態に関連する言語インプットを行うかビデオ画像として記録した。また子については、感情理解、視線や指差しによる参照行動の理解、欲求と感情の理解に関する課題および言語課題を実施した。収集した第一次調査データの様相を知るために、2歳児グループと3歳児グループに分け横断的に分析を行ったところ、2歳から3歳にかけての社会認知的能力の発達変化が確認できた。またこれらの結果を、欧米の先行研究と比較したところ、日本の子どもの課題達成度が欧米の子どもと比して異ならないことが示された。これらより、4歳以前の心的表象能力について検討した限りでは、文化間差はみられない可能性が示唆された。今後、第2・3調査において、他者の信念の理解の発達は欧米の子どもに比べどのように差異がみられるのか、その様相について検討する。親の言語(または、非言語)をとおした子への関わりのあり方が、どのように子どもの他者にかんする心的表象能力と関連していくかを分析していくことにより、幼児が日本文化のなかで、親子のコミュニケーションのどのような側面を通して、他者を理解するための認知能力を発達させていくのかについての見通しが得られると期待できる。
|